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kikaisenban

怪談

窯口のきつね

父の窯から出た壺には、生きた虫が入っていた。客に手を掴まれた父の影だけが、狐の形になった。
怪談

観覧車の影法師

止まっている観覧車の影だけが回っていた。娘を探しに行くと、一人は柵の中に、もう一人は自分の隣にいた。
怪談

母の耳たぶ

母の耳たぶの小さな穴には、畳の部屋が見えた。そこにいる五歳の私が、今の私の声で話していた。
怪談

空を拭く窓

十五階の窓を拭いていた。ガラスの汚れだと思った白い筋は、空そのものに付いていた。
怪談

帰りの夢を買う

終電を逃した町で、帰る夢を見られる枕を買った。翌朝、その布には自宅までの道が自分の字で描かれていた。
怪談

雨樋の蜜

雨の降らない朝、マンションの雨樋から甘い液体が落ちていた。住人たちは洗面器でそれを受けていた。
怪談

二人で持つ箪笥

離婚の翌日、二人で持ち上げた箪笥を下ろせなくなった。空の引き出しの奥では、まだ夫婦の二人が笑っていた。
怪談

砂の歯医者

砂の顔に本物の歯を並べる男へ、歯の向きが反対だと教えた。その夜、自分の奥歯の根が口の中へ突き出した。
怪談

冷蔵庫の客間

夫の昔の同僚だという客を居間へ通した。冷蔵庫の白い扉には、その客と楽しそうに話す自分が映った。
怪談

川向こうの花火

対岸の誘導員をしていた夜、川に魚の影が現れた。観客は空ではなく、水面へ拍手をしていた。