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kikaisenban

怪談

床下の春

母は眠るとき、布団の上に土をかぶる。園芸を仕事にする娘が床下を覗くと、暗闇に緑の葉が茂り、透けた石の中で細い脚が動いていた。
怪談

駐車場の白鳥

閉店後の駐車場に、巨大な白鳥の輪郭が現れる。白い線を黒く塗り潰すたび、鳥の腹に停めたワゴンが潰れていった。
怪談

水曜日の献立

夫婦が食卓を囲む水曜日。夫は一週間前から夕飯の匂いを嗅ぎ、妻は知らない台所で同じものを煮ていた。夢の食卓に座る男の指が、一本ずつ減っていく。
怪談

床屋の四番椅子

四番の椅子に座る客だけは、叔父しか剃らなかった。留守の月曜、耳の下の髭へ刃を当てると、誰もいない隣の椅子の鏡に、血を流す女が現れた。
怪談

逆さの踏切

列車の来なくなった踏切の水溜まりに、人が歩いていた。水を埋めた翌朝、固定されている遮断棒の影だけが下り始める。
怪談

桃の箱

住みこみの果樹園から、弟が桃を送ってきた。箱を開けると、果物より先に弟の使っていた石鹸の匂いがした。種の割れ目には黒い毛が生えていた。
怪談

化粧を落とすまで

友人の婚礼で化粧を頼まれた。門を開けてくれた老女の影は、小さな犬の形をしていた。借りた鏡の中で、新婦の顔だけが少しずつ変わっていく。
怪談

石の中の潮

磨くと魚の影が見える白い石。叔父が少しずつ削っていた面を、居候の甥は勝手に磨いた。作業場の戸の下から、海岸の砂が入り始める。
怪談

午後の切り抜き

父と息子で切った影絵。紙の襟を切り落とした瞬間、息子が喉を押さえた。古い黒紙の上では、描いていない目が開き始めていた。
怪談

土を捨てる日

閉じる陶芸教室で、古いバケツの土を捨てようとした。取りに来た女性は、それだけは自分が持つと言った。